特異な狩猟文化を受け継いで今日に至っている集団に、青森・秋田・岩手・山形・新潟の山岳地帯に広く散在する「マタギ」がある。古くは「山立ち」と呼ばれていたそうで、山を「たつき」(生計の基盤)にしているというイメージそのもので、「マタギ」は「山立ち」がなまった言葉といわれている。
平安時代に起源するマタギは単なる狩猟者の集団でなく、狩猟法・生活習慣・宗教観から言葉まで一般と異なった文化をもつ人たちのコミュニティー(共同体)である。
狩猟獣はクマ、シカ、イノシシ、ウサギがほとんどである。
料理法も特異でさまざまに紹介されており、東京や大阪に専門店があるが、概して、①あらゆる部位をムダなく使う、②味噌・醤油は使うものの基本的に素材の旨味(うまみ)を存分に活かす、③山菜・キノコ・木の実との相性の良さを活かす、などを特徴としている。
「マタギ」についてはさまざまな調査・研究・報告・出版があるが、総じて言えば「大自然=神と生命に対する畏敬の念、あるがままを活かす自給自足の知恵、素材本来のうま味を楽しむ食の豊かさ、コミュニティーの絆(きずな)の強さ」など、現代日本が顧みたい民族の原像をみる思いがする。
なお、北秋田市のマタギ発祥の地阿仁(あに)地区には「阿仁マタギ」という駅もある。

(2021年5月)

新刊 『これからの日本のジビエ』 紹介

 人と野生動物の軋轢(あつれき)が強まる中、鳥獣対策がいっそう真剣に取り組まれるようになった。
 このたび刊行された『これからの日本のジビエ』(緑書房)は、仕事であれ、趣味であれ、ジビエに関わる全ての人にとって有用・有益な書物である。編著者が麻布大学の押田敏雄名誉教授と聞くだけで知れようというものだ。是非のご購読をお勧めしたい。
 A5版、232頁、2,500円(税別)。       (奥山)