このところ卸売市場の松茸の入荷が増えており、消費者価格は平年の半分近くになるのではないかと、ラジオが報じていた。
 「高松のこの峰も狭(せ)に笠立てて満ち盛(さか)りたる秋の香(か)のよさ」と
万葉集にうたわれているくらいだから、日本人の松茸好きは半端でない。にもかかわらずここ1世紀ほどの間、収穫は減少の一途をたどってきた。理由は、松の育つ土地の肥沃化にあるという。松茸はやせた土地を好むのだそうだ。
 それにしても、なぜ日本人は松茸のあの香りと歯ごたえに魅せらるのだろう?

 40年近く前の話になるが、韓国のソウルを訪問した時のことである。知人の誘いで早朝の松茸セリ市の見学に出かけた。未明に山岳地帯から搬入され落札された松茸は9時40分発の飛行機で日本に送られるためすでに運び去られ、場内はガランとしていて、色や形が悪かったり傘がとれたりした格外品が処分のため片隅に集められていた。もったいない・・・。
 知人が両手いっぱいもらい市場前の朝食専門店に持ち込んでくれた。いい機会だからと朝酒を飲みながら待つうち、出てきた料理を見て驚いた。切り刻まれた松茸がプルコギの汁でしっかり煮〆められていたのである。

 海外ではあの香りはきわめて不評だ。「風呂に入ってない人の体臭」とか「足の蒸れたニオイ」などと言われ、通称は「不快臭のするキノコ」である。世界的に絶滅危惧種だそうだが日本への輸出が問題にされないのはニオイの問題のせいかもしれない。
 日本人はジビエのニオイに慣れつつあるものの、フランス人が松茸の風味になじむ日がくるか―――な?

(2020年10月)