島根県美郷町は人口5千人の山あいの町で、高齢化率は45%に及ぶ。イノシシによる被害が深刻になった1999年に対策が動き出したが、依存した猟友会の活動は期待に反した。

効果のまったく上がらないことに気づいた農家は自助意識に目覚め、「百歳をこえても行くのが楽しい畑を作ろう」を合言葉に「駆除班」を結成した。キーワードは「身の丈」で、わかった人、できる人が取り組めばいい、というものだった。

奨励金目当てでなく、縄張り争いがなく、協力し合い、情報やノウハウを共有する駆除班の活動と成果は目覚ましかった。このような組織には血が通う。自然に新しいコミュニティー(地域共同体)が形成され、さまざまな「気づき」が誕生した。

その結果、夏イノシシ活用、「おおち山くじら」ブランド化、惣菜・弁当調理、ペットフード製造、レザークラフト、缶詰製造、飼料原料開発などの「ジビエ産業」が育っていった。

助成金支出がなくなったうえ利益が生まれ、雇用が創出され、観光客が来るようになったのだから、これで「目出たし目出たし」と言えそうだが、関係者は新たな課題に頭を痛めている。

事業が成長し「安定供給」が強いられ続けば、限られた資源は遅かれ早かれ枯渇してしまう。川下の都市と川上の山村の価値観の行き違いである。美郷町は害獣駆除の先を見ているのである。

「ジビエ産業」の持続的発展のために学ぶべきは「広域化」である。対象地域を広くとることによって個体管理にゆとりができ、増減がなだらかになる。また、人的・技術的な交流がスムーズに行われ、全体として進歩が期待されるからである。

具体的には、整った大型処理施設をハブ(中核)とし、これを囲んで中小処理施設を散在させ、行政域を越えたネットワークを構築するというものである。

自分たちだけの目先の利益を追い求めるのでなく、地域全般にわたって長期的視点に立って考えるという意味での「広域化」も必要であることを、美郷町から学ぶことができる。(2019年3月)