「ご破算で願いましては・・」と言われても今どきの若者には何の呪文かわからないかもしれない。そろばん(算盤)をはじく冒頭の掛け声である。筆者は1960年に某総合商社に入社したのだが、まだそろばんの時代で、大卒者は1か月ほど研修を受けさせられた。1ドル=360円の時代、1,234ドルは何円になるか、など懸命に練習させられたものである。

 で、「ご破算で願いまして」だが、和英辞典を引くと “calculate a new” “make a fresh start” などとある。要するに原初に返って見直し、やり直そうではないかという呼びかけである。
 大は、資本主義や民主主義のあり方から、身近かなところでは生活習慣に至るまで、あちこちに矛盾やほころびが積み重なり、修復困難になりつつある。気候温暖化と貧富の格差拡大が最大の課題だが、新型コロナパンデミックも無関係ではなかろう。
 いきなり大風呂敷を広げてしまったが、ジビエに関しても、時として原点に立ち返ることが必要でないかと思うからである。
 要するに今の時代、贅沢と無駄が多すぎるのである。硬いの・クサいのと難くせをつけては忌避(きひ)している。それでいて、話題を呼ぶとこんどは通(つう)ぶって「珍味だ」「美味(うま)い」などと触れまわる。マタギ料理がいい例だ。
 ある料理に首をかしげていた評論家が、作った人と知り合いになったとたん、「美味(おい)しい」と太鼓判を押したという実話もある。

 いっぽう、日本にも、世界にも、飢えに苦しんでいる人たちがいる。それでいながら食品ロスは増加の一途だ。敗戦を国民学校2年生のときに迎えた筆者は、当時の空腹を今でも思い出す。
 日本の山野で生まれ育った鳥獣肉は古来美味しく食べられていた。この際「西欧ジビエ」の常識をご破算にして「日本ジビエ」の構築を目指すべきだと思うのだが・・・。

(2021年3月)