環境・健康・貧困問題・安全保障に目をつむってひたすら企業の規模と利益を追い求めるアメリカ型マネー資本主義はとうに限界を迎えている。今はただ惰性で世界がまわっているだけだ。
 ・・・と書き出せば、自分たちにはどうにもできない問題だし、そもそもジビエに何の関係があるの? と言われそうだ。しかしこれは世界の問題以前にわれわれ自身の生き方の問題でもあるのだ。カール・マルクス2世の出現を待っている余裕などない。

 都会で、生活費を稼ぐため必死に誠実に働いている姿そのものはまぎれもなく尊い。それはそれとして、ちょっと田舎の暮しに関心を寄せてみるのはどうだろう? 遊び心でいいから。
 第一にコミュニケーションが楽しめる。これが原点だ。「用件はメールで願います」の世界とは対極にある。コミュニケーションはそれ自体楽しいだけでなく、「気づき」のきっかけにもなる。
 第二に生活費が安くつく。「交換」による支出軽減である。交換は農山村特有のもので、コミュニケーションの一種でもある。
 第三は「自然」による癒し――。
采菊東籬下(菊を采<と>る東籬<とうり>の下<もと>)
悠然見南山(悠然として南山<なんざん>を見る)
山気日夕佳(山気<さんき>日の夕<ゆうべ>に佳<よ>く) 飛鳥相与還(飛鳥<ひちょう>相与<あいとも>に還る
むかし教科書で暗記した陶淵明の詩が実感できるのはなににも
代えがたい。「ATMを操作するコンビニの中、ぼんやりと陳列棚を眺める、外に目をやれば夕暮れせわしなく、人びとそれぞれに家路を急ぎおり」(拙作)の風景と対比すれば一目瞭然だろう。

 都会生活を実体験している方々に、こっそり異体験が味わえる農山村の豊かさを用意するのもジビエ事業の一つと考えている。実は、滞在型ハンターハウスを企画中なのだ。

(2020年11月)